偽りの婚約者
金曜日、今日は東條雅人と会う約束をした日だ。
この間、行くと返事をした事に後悔し始めていた。
……もし、また何か脅迫されたらどうしよう……。
朝、会社に行く間にそんな事を考えてしまい、だんだんと憂鬱な気分になって来てしまった。
今日だけ倍の時間で、一日が過ぎないかなぁ。
なんて思って仕事をしているうちに退社時間になってしまった。
時間なんてあっという間に過ぎてしまう。
それでもいまさら断る訳にもいかず、指定された場所に向かう。
そのBARは分かりやすい場所にあった。
扉を開けて中に入ると。
東條雅人は、すでに来ていて。
隣に座りたくない。
でも離れて座るなんて変だし……。
座る事に躊躇して暫く突っ立っていたら。
「何やってんだよ、早く座れ」
怪訝な顔を向けられ。
直ぐに隣に座るとバーテンさんと視線があった。
「何になさいますか」
「弱いみたいなんだ。あまり強くなくて飲みやすいカクテルを」
「そういう事ならカシスオレンジはどうですか?」
「それで」
ちょっと何で勝手に頼むの。
何にしようか考える間もなく彼が勝手に頼んでしまった。