偽りの婚約者
「……千夏?おいっ!」
「……!!あっ、えっと、何か言いましたか?」
「お前な……俺の言った事を聞いてなかったのか?」
「……ごめんなさい」
「……やっぱり、何かあったんだろう?」
「いえ、なんにもないです。
ただ……ちょっと考え事をしていて……」
「……へぇー、俺の話しよりも考え事が優先か?
俺も甘く見られたもんだ」
不機嫌そうな瞳が、じっと見ている。
「あっ、あの……そういうつもりじゃ……」
私のせいで気分を悪くしたよね。
どうしよう……。
「ん"っ!?」
急に鼻をつままれ、顔を上げた。
「フッ……、冗談だ」
目の前には不機嫌そうな瞳の代わりに、面白そうに私を見ている東條さんがいて。
怒ってないと分かってホッとした。
「お腹がすかねぇか?」
家を出る前に早めのお昼は食べて来たけど、なんだか小腹は空いたかも。
「出来たら、甘いものが食べたいです」
「甘いものか。確か来る時に喫茶店があったな……行って見るか?」
「はい」と答えた瞬間何故か砂浜に派手に倒れ伏してしまった。
「……何やってるんだ?」
「……つまずいたみたいです」