偽りの婚約者



喫茶店につくと、千夏は目の前のチーズケーキを美味しそうに頬張っていた。
ちょっと前まで泣きそうな顔をしていたくせに。



足のケガも大したことなくて良かった。


幸せだ、みたいな顔をしやがって……。
さっきの泣き顔は見る影もない。
フッ……、しょうがねぇなぁ。



「私、チーズケーキ大好きなんです!!」
そう言って彼女はあっという間に食べてしまった。




「そんなに好きならもう一つ注文してやる」



「けっ、結構です。
2つも食べたら太っちゃうじゃないですかっ!」


「平気だろう。お前は全然太ってないんだから」



「そんな事ないですよ。気を抜くと太っちゃうんですからっ……」


必死な姿がなんだか可愛く見えて、思わず笑ってしまった。



「可笑しいですか?」



「いや、なんだか可愛いなと思って」



「か、かわ……いい……って、何ですかそれ……っ?」



千夏は顔を真っ赤にして照れているのか下を向いてしまった。



「……私をからかって、面白がってるんですね?」



そんなつもりはない。



「面白がってるわけねぇだろう。
あのなぁ、本当に目の前のお前が可愛く見えたから言っただけだ」



お前の事が可愛く思えて仕方ねぇから迷う。
このまま目的のために、お前を利用していいのか……。
いや……このままでいいんだ。
始めた事を途中で止めるわけにはいかない。






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