偽りの婚約者



この間誘われたドライブ、いつ復讐の話しが出るのかと気を張っていたのに。
その話しはまったくといっていいほど会話に出てこなかった。


そればかりか、可愛いとか変な事を言って来て面白がってないなんて言っていたけど。
からかっていたとしか思えない……一体どういうつもりなんだろう?



でも、私が転んで足にケガをした時は凄く優しかったなぁ……。
東條さんの中にはちゃんと優しい部分もあるんだって分かって、なんだかホッとしてしまった。




今、私は彼のマンションの一室でなんの説明もないまま渡された鍵を手にどうしたらいいか分からないでいた。


ただの偽婚約者に何だって、こんな物を渡してくるのか。


意味が分からない。
渡された鍵を返そうとしたのに、彼は受け取らなかった。



「どうして鍵を?私達が婚約していることを周りに見せるために今まで会っていたんですよね?」


「それは……ちょっと違う」



「……それなら、どうして何度も会う必要が?何にも説明のないままで、私はっ……」



東條さんの訳の分からない行動が今まで何度も感じた不安をさらに助長させた。



「とりあえず、なんの為の鍵か説明してください。
お掃除やご飯を作れって事ですか?
夜も付き合えって事ですか?」





「掃除や飯を作れなんて言ってねぇだろう?
まぁ、やってくれるならこっちは助かるけどな」





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