偽りの婚約者



それから家に帰ってから、東條さんから渡された鍵にキーホルダーを付けた。
これは前に紗季さんから貰った旅行のお土産で可愛いから気に入ってるものだった。


キーホルダーの星をちょんとつつくと、一緒に付いている小さな鈴がチリチリン……と綺麗な音で鳴った。



手の中にそっと包んだ。
いつか近いうちに、これを返す日が来る。



マンションの鍵を渡されてから暫くして、東條さんにに呼びだされて彼のマンションに行く事になった。


創立記念パーティーの翌朝あのマンションからパニック状態で飛び出したから、場所は良く覚えてない。
タクシーで行った方が迷わなくてすむ。


仕事が終わってからタクシー乗り場に向かう途中で携帯電話の着信音が鳴った。東條さんだ!




急な仕事で残業になってまだ帰れないから先に行って待っててほしいと言われた。
タクシーに乗ってマンションの名前を告げると20分ぐらいかかりマンションに着いた。


電話で言われた通りに中に入って左手にある部屋に入って暫くは、ソファに座ってじっとしていたけど手持ち無沙汰になってしまい……。
ちょっと探検みたいな気分でドアを開けて出て歩き回った。


リビングを出ると直ぐ隣に小部屋があった。
それからキッチン、わりと広いなぁ……。
あと浴室とトイレがあって。
最後に、見覚えのある部屋に気付いた。


この間は確か、この部屋を出て直ぐに出て行ったんだっけ……。
暫くして、あの時の記憶が甦って来た。
ドアに手を掛けかけて思いなおして直ぐに手を離した。
この部屋に私が入ることは、もうない筈。




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