偽りの婚約者
「その後、玲奈には支えてくれる人が現れて。
玲奈のお兄さんの秘書をしている人なんだけど、ずっと前から玲奈の事が好きだったようなの。
そういう人が現れたんだから、もう大丈夫だと安心してた。
それなのに……玲奈の目の前に東條君が現れた」
その時、私の携帯電話から着信音が鳴った。
「あ……紗季さんすみません」
「大丈夫。」
バッグから出した携帯電話には、彼の名前が表示されていた。
東條さん。
今、東條さんとは話せない。
玲奈さんが恋人だったって知って、けっこうショックだった。
いつも通りに話す自信なんてない。
胸の中に渦巻いている感情を、東條さんにぶつけてしまうかもしれない。
「……千夏、出ないの?」
私は携帯電話の電源を切った。