偽りの婚約者
《前に言った筈だけど。経理課に知ってる先輩がいるってな》
《諸田主任ですかぁ?》
《何で知ってる?お前には話してない筈だけど?》
やばっ!
紗季さんから聞いたから頭に残ってて、つい言っちゃった。
《何となく?……です》
《何となくか……》
何とか誤魔化せたかな。
《ところで今、どこにいる?》
《……えっ、あー……えと、家にいますよ。
決まってるじゃないですかぁ?》
とっさに訊かれて一瞬頭が真っ白になってしまった。
酔いは醒めたと思ったけど口が回らなくていつも通りに喋れないし返した返事も怪しいと思ったかもしれない。
《へー、家か。じゃあ、俺が今どこにいるか分かるか?》
《……どこってぇ……マンションじゃないんれすか?》
《お前の家の前だ》
私の家!?
《あのぉ……東條さん?
本当にあたしの家に?》