偽りの婚約者



素っ気ない返事しか返せなかったのに帰り際にまで気遣う言葉をかけて貰ってこのbarの雰囲気がいいのはバーテンさんの人柄だと思った。

先を急ぎたい私は直ぐに会計を済ませてbarを出た。



足元がふらついて、まっすぐに歩けない。



弱いお酒でも何杯か飲んじゃったし、やっぱり飲みすぎだよね。



たしかタクシー乗り場は向こうだったはず。



覚束ない足どりでタクシー乗り場を目指す。
気持ちは焦っているのに思うように歩けない。


まずい……だんだんと胃が気持ち悪くなってきた。



先にトイレに行こう。



駅のトイレに入って落ち着くのを待った。



やっと落ち着いてタクシーが数台停まっている乗り場まで、歩き出した時。



「待ってろって言ったはずだ」




心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。
後ろから急に現れるなんて。



「びっ、びっくりしたじゃないですかっ。
ヒドイですよ。突然、後ろから現れておどかすなんて」



直ぐにタクシーに乗れていたら、ここで捕まる事もなかったのに……なんてタイミングが悪いんだろう。
まだフラフラするし今日は、うまく立ち回る気力も残っていない。


今日はこのまま帰えりたい。


「今日は飲みすぎて具合が悪いんです。タクシーでこのまま帰ります」



視線を合わせずに言ってタクシに乗ろうと歩き出したが。


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