偽りの婚約者


「……………」


思っている事は言葉にできずに俯いた。
協力のためだけの関係―――――。


私が好きだと告げたって東條さんは一笑するだけだろう。
言えるわけがない。



「また無言か?帰ったらじっくり問いつめてやる覚悟してろ。
時間はたっぷりあるしな」



「どこに向かってるんですかっ?」



ハッとなって訊くと。




「マンションだ。さっき言っただろう?覚悟しろってな。
俺から逃げられると思うな」



っ………。



「マンションには行きたくないです。そろそろ帰らないと……何も言って来てないから」



「千夏のお母さんにはさっき連絡して了承してもらった」


勝手な事をしないでよっ。



「余計な事をしないで下さい」




「逃げたお前が悪い」


幸い車は赤信号で止まっている。
今なら降りて―――――――――――――。


ドアに手をかけようした。

< 67 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop