偽りの婚約者
「……………」
思っている事は言葉にできずに俯いた。
協力のためだけの関係―――――。
私が好きだと告げたって東條さんは一笑するだけだろう。
言えるわけがない。
「また無言か?帰ったらじっくり問いつめてやる覚悟してろ。
時間はたっぷりあるしな」
「どこに向かってるんですかっ?」
ハッとなって訊くと。
「マンションだ。さっき言っただろう?覚悟しろってな。
俺から逃げられると思うな」
っ………。
「マンションには行きたくないです。そろそろ帰らないと……何も言って来てないから」
「千夏のお母さんにはさっき連絡して了承してもらった」
勝手な事をしないでよっ。
「余計な事をしないで下さい」
「逃げたお前が悪い」
幸い車は赤信号で止まっている。
今なら降りて―――――――――――――。
ドアに手をかけようした。