偽りの婚約者
大丈夫、東條さんは前方に目を向けて信号機を見ていて私には気付いてない。
東條さんの様子を見ながらシートベルトにそっと手を掛けて反対の手をドアに伸ばした瞬間。
「今、降りたらケガするぞ。もう信号も変わる」
気付いてないと思っていたのに降りようとしていた事に気付いてたんだ。
今なら逃げられるってそう思ったのに……。
私の思惑は外れた。
諦めてシートに座り直した直後にドアはロックされ車が動き出した。
「逃げようなんて、考えるなよ」
マンションはもう直ぐだし、逃げたい。
でもこんな状態じゃ逃げ出すのは無理……。
車はマンションの駐車場に停まった。