偽りの婚約者
車から降りた時、東條さんの動きは早かった。
私が隙を見て、また逃げると思ったのか降りて直ぐに半ば拘束するように肩を抱いて部屋まで連れて行かれた。
お店の名前を言ってしまったことを今更ながら後悔した。
でも、あのbarにいることを黙って電話を切っていたら、まだ家の前で待っていたかもしれない。
どっちにしても、東條さんに捕まっていたのだろう。
今日は日が悪いのかもしれない……。
星占いなんてあまり信じない方だけどツイてない日って今日みたいな日の事なんだろうね。
はぁ……。一気に体の力が抜けてしまった。
「さて、どうして逃げたか話して貰おうか」
「……ただ帰ろうとしただけです」
「はっ、それを逃げたって言うんだろがっ?
大人しく待ってられなかったのか、止まった車の中でも逃げようとしやがって……」
無意識に後ろに下がって壁に体があたった。
瞬間ドンッと東條さんが両腕を壁に突き身動きが出来なくなった。
えっ!?
東條さん……?
「電話では、ずいぶんと言いたい放題言ってくれたな?」
「それは……だって……」