偽りの婚約者
「千夏」
「はい?」
「俺に言う事があるんじゃないか?」
「えっ……?」
「俺だけに言わせて自分は言わないつもりか
狡いぞ」
すっかり和んだ雰囲気の中、東條さんに突然、言われた事の意味には直ぐに気付いた。
あの時の言葉はちゃんと東條さんに届いていたんだ。
あの時はすんなりと言えた言葉も今は……。
東條さんは早く言えというようにニヤリとしながら私を見ている。
今まで誰かを好きになっても勇気がなく告白などしたことなんてない。
緊張してしまい思うように言葉が出てこない。
さっきから心臓が煩いくらい早打ちしていて、この状況にいつまで耐えられるか分からない。
やっぱり、無理だよ。
「……ったく、しょうがねぇな」
スッと手が伸び、両頬に東條さんの手のひらが触れたと同時に合わされた唇。
「好きだ。お前を誰よりも愛おしいと想う気持ちに嘘はない」
唇が離れた後、私の顔を手のひらで包んだまま視線を合わせた東條さんから何度目かの告白をされた。