偽りの婚約者
中に入って行くと、家政婦らしき中年の女が「お嬢様お久しぶりです」と玲奈を迎えていた。
中も相当に広い、出迎えた家政婦に案内された部屋に緊張しながら入っていくと。
「……君が、玲奈の言っていた東條君か?」
玲奈の父親か。
「はい、東條雅人と言います」
頭を下げた。
「まるっきり話しになりませんね……」
何だ……?
挨拶した玲奈の父親の隣にいた若い男が、俺に向かってそう言い放った。
意味が分からず見返すと。
「失礼、私は玲奈の兄で慎一と言います。」
てっきり秘書だと思っていたが、まさか玲奈の兄だったとは。
「息子は私の跡を継いで
滝本興産の社長に就任したばかりでね」
「はぁ……そうですか」
やっぱり住む世界が違うな。