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 三号車と四号車を隔てる扉付近に、老夫婦らしき人物が仲睦まじげに、あたりめを貪っていた。くちゃくちゃとむず痒くなるような音を立てながら。どうやら、車内に充満する臭いの原因は、この二人からもたらされているらしい。
「ばあさん、別に演劇なんてしなくてもよ、生きることが演じることでねえか」
 と初老の男。
「じいさん、演じてばかりじゃ疲れますよ。ときにはありのままの自分をださないと」
 なるほな、と初老の男は、あたりめを、くちゃくちゃと音を立てて食べた。
 面白い考えね、と鳩葉は思い、四号車を後にした。
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