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 「梨花ちゃん」
 母が言った。名前は雅美。いつも知らない男を呼ぶ。狭いアパートの一室で、梨花が寝静まると、お酒と呼ばれるアルコール臭を風と共に運び、部屋を席巻させる。
「なあ、雅美、一発すかっとしようぜ」
「駄目よ。娘がいるんだから」
 まんざらでもなさそうだ、と母の声を聞いて梨花は思った。梨花は五歳になった。おそらく、大変の五歳と呼ばれる年齢の子供よりは精神年齢は大人びているはずだ。なにより、母と見知らぬ男の情事からの喘ぎ、お金にまつわる金銭感覚と耐性、そこで交わされる会話は梨花にとって新鮮であると同時に、汚辱にまみれた、世界だと思った。なので、幼稚園で先生を見る目も次第に変わっていった。
「先生、昨日セックスしたでしょ」
 梨花は比較的大きな声で言った。
 えっ、と先生はきょどり、顔を赤らめ、緊張からか唇を舌で濡らした。わかりやすい。もう一度、言おうか。もう一度、辱めを与えようか。五歳の梨花にとって、大人を困らせ、悩ませることは容易かった。
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