HELP
 「なんで知ってるの?」
 先ほどまでの狼狽が嘘のようにしれっと応えた。まさかの切り返しに梨花は困る。
 が、「中?外?」と立て続けに攻めた。
「それは・・・・・・」
 と真摯な姿勢で対応しようとする先生に梨花は笑みの果汁が広がる。梨花の手には林檎がある。先生の実家が青森で仕送りという名目で送られてきたらしい。一口のみならず二口ほど食べたが、甘みと酸味が交錯し、口の中で唾液と混ざり、味に深みが増した。
「ねえ、先生」と梨花は林檎を一口噛み砕き、「他人の唾液ってどんな味?林檎?それともバナナ?」
「なんの話しをしてるの?」
 同級生でもあり、幼稚園の風紀委員長の絶対的娘であるマナが話に入り込んで来た。梨花は、この子のことがあまり好きではない。親の権力の下で悠々自適で何不自由ない暮らしをし、甘えた声を出せば、誰かが助けてくれると思っている。
< 118 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop