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 でも、どこかで見たような?
 気のせいだろうか。
 梨花にはわからない。
「素敵です」
 それだけを言い残し梨花はその場を立ち去った。黒髪の女性が首を傾げ、クッ、と感情の読み取れない単音を発した。
 また四号車に戻るときに、その理由を尋ねてみるのも人生勉強かもしれない。
 三号車と二号車の間のトイレに入った。梨花は、実を言うと体調が悪い。いつからだろう?まず不快なのは、生理がこないことだ。ある予感がよぎる。十六と十七の狭間で梨花は平べったい棒状の妊娠検査薬を取り出し、使用した。信号のように赤から青に変わった。
 陽性だった。
 梨花は嬉しさと大丈夫だろうか、と折り混ぜになった感情を胸に秘めトイレの扉を開き、四号車へ戻ろうとした。その際に、鳩の目のようにこぶりな女性と肩がぶつかった。
「ごめんなさい」
 と梨花。
「大丈夫?」
 と鳩の目のような女性が心配そうに訊ねて来る。
 しかし、梨花は無表情に立ち去った。妊娠していた事実にぶち当たったから
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