HELP
 その時、鈴音は肩を叩かれた。
「やあ、お待たせ」
 彼女は振り向いた。そこには恭一がいた。

「遅い」
 と鈴音。
「怒っているのかい?」
 心と財力に余裕のあるものだけが見せる笑みをみせた。ゆっくり、ふわりと口角が浮き上がる。それを見せられると何もかもが許されてしまうから、鈴音は不思議だ。この笑みに関しては努力で会得できるのではなく、天性と認識させてもらった方が事は穏便に運ぶ。
「喉が渇いた」
 大人げない態度を鈴音はした。素直になりたいが素直になれない。でも、待たされるのは嫌いだ。怒っている、というのは遠回しに主張した。
< 37 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop