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 たしかに将来のためだから、勉強する。という言い分は間違ってはいない。学び、理解し、実践する。世の中を作っている人は、勉強が出来る人達であり、裏を返せば実務ができない人達である。梨花も将来について思いを馳せないわけではない。漠然とだが、考えてはいる。だからといって過度に詰め込んだ勉強では、何も身につかないのではないか。梨花にはよくわからないことだ。なにせ、孤児だから。
「マモルは勉強なんてしたくないの。彼は画家になりたいの。おばさん知ってた?」
 またも梨花は平坦な口調で言った。水鉄砲を一滴、絹枝に発射させた。
 罰。
 マモルの母親である絹枝は、水に濡れるのをやけに恐れる。マモル曰く、
「母さんは、本性がバレるのが嫌なんだ。女の人って難しいよね。身内には見せて、他人には見せたくない。年齢を重ねると恥も外聞も気にならないとはいうけど、僕の母親は塗り固められたセメントだよ」と悲痛な表情で両手を挙げていた。

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