HELP
 「隠す必要はないです。人は泣くことで、新しい自分に生まれ変わるのですから」
 花丸は言った。
 知り合って一駅半。彼の素性は未だにわからないし、頼りがいがあるのか、たんなる情け男なのか判断には困るが、今の一言に関してはこれだけは言える。「大変よくできました」
 おっ、と花丸は唇をすぼめ、「涙の雫を落としたんです。何があったか話してみませんか。解決策が見いだせるかもしれません」
 胡桃は息を吐いた。女は喋ってストレスを発散し明日への糧とする。解決は既にしているのだ。もう、涙を流した時点で解決のゴールテープは切られている。切られた時点で元には戻らない。割れた陶器を元通りに戻せないように。完全なる修復は不可能なのだから。
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