ノスタルジア





外には出してくれないくせに、どうして出てはいけないのか教えてくれない。




また私からテレビに視線を戻した彼に、ぷくーっと頬を膨らませた。






────ポーン







と、不意に軽快な音が聞こえる。





私は、無意識に玄関のあるほうへと首を向けた。






その音の主が、誰か知っているから。






「澪、私が出てもいい?」




ワクワクと胸を踊らせて、彼に問う。




だけど。






「ダメ。君が出ると誘拐されるから」





「ちぇ……」







意味の分からない言葉を置いて、彼はパンの最後の一欠片を口に押し込んで立ち上がる。





ここに訪問してくる人なんて、あの人一人しかいないのに。




変なとこ厳重だ。






< 21 / 482 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop