ノスタルジア
「キキは理由もなく俺の言いつけを破る子じゃないだろ。知景だって、まるわかりだよ。キキをかばってることくらい」
「じゃあ……どうして」
そう言った私は、無意識に視線をキッチンへと向けた。
そこにはまだ、きちんと処分されていない割れた土鍋が片づけられてある。
私は、てっきり知景に怒ってあのお粥の入った土鍋を割ったのだと思っていたのに。
その原因は、私でも、知景でもなく。
「……無力というものほど、必要のない力はないね」
「……無力?」
「キキにはよく分からないだろうけどね。知景に本当のことを言われて、思い知ったのさ」
「………?」
「あの時、自分にムカついてしょうがなかったんだ。びっくりさせてごめんな」
やっぱり、澪の言葉はよく分からないのだけど。
少し眉尻を下げて謝る彼に、私はそれ以上何も聞けなかった。