ひまわりの涙
「鞠乃お嬢様、お迎えにあがりました」

恭しく頭を下げ初めて会った時の笑顔を向けてくる。

「ど、どうして、あなたが…」

あの日会った時の冷たい表情を思い出す。

今はそんな態度は微塵も感じさせない。

感じのいい笑顔を崩さずに鏡明人は話し出した。

「あなたのお兄さま、春仁様からお迎えにあがるよう仰せつかってます」

「お兄さまが…」

行くなんて返事はしていなかったけど、今初めて気付いた。

あの手紙は強制であり私の意志は無視したことだったと。

何で手紙を受け取ったときに気が付かなかったのか自分の甘さを思い知った。

「鞠乃お嬢様?…支度が出来てるようでしたらいきましょう」

鏡明人までもが私を無視してお兄さまの命令を遂行しようと追い立ててくる。

そんな鏡明人を見つめる。

当たり前のことだ。お兄さまの側近ならお兄さまの言葉が一番なんだから…

「はい…」

私は小さく返事をすると、バックを取りに部屋へ戻った。

またここへ戻ってこれるだろうか…

そんな一抹の不安がこみ上げてきた。
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