初恋
「どうぞ」
「お邪魔しま~す」
初めて訪れた景の部屋をきょろきょろと見渡しながらリビングのソファに腰かけた。
しばらくして景が温かな湯気の立つマグカップをふたつ持って現れた。
「どうぞ。インスタントだけどね」
「ありがとう」
ソファーに並んで座り、コーヒーを一口飲んで景に尋ねた。
「で?渡したいものって何?」
「あぁ」
景はそう言いながら引き出しから何かを出して戻ってきた。
「これを沙羅に」
そう言って出されたのはビロードの小さな箱。
「え?これって・・・」
戸惑う私の目の前で景はその箱を開けた。
そこには間違いなくシルバーの指輪が入っていた。
「どうして・・景」
私たちはただの幼馴染みのハズ。
指輪を貰う様な付き合いはしていない。
視線を指輪に落としたまま思考を巡らせていると、景が真剣な声で尋ねた。
「沙羅、俺が今まで彼女を作らなかった訳を知っているか?」
「え?訳?」
動揺している私には答えなど見つからず、首を横に振った。
そんな私に景はふっと小さくため息を零した。
「やっぱり沙羅は気付いてなかったか・・・」
そんな景の言葉に私は顔を上げて景を見た。
景はじっと私を見つめて言った。
「沙羅、俺の気持ちはずっと変わっていない。今でも沙羅が好きだ」
「あっ・・・・私・・・・」
なんて答えていいか分からなかった。
景はもう私の事などなんとも思っていないと思っていた。
それに、私がまだ東吾を忘れてはいない事は景も知っているはずだ。
言葉を探していると、景が先に口を開いた。
「お前がまだ田宮を忘れられないのは分かっている。だけど、沙羅はいつかあいつを忘れられるのか?」
「―――っ・・・」
そう聞かれて何も言えなかった。
東吾を忘れる日なんて、きっと永遠にない。
涙が浮かんできて、思わず私は下を向いて顔を隠した。
すると、景は慰めるように私を抱きしめた。