初恋
「あいつ、いるわよ。日本に」
「そうなの?!」

由香の一言に食いついた。

「この間会ったとき、言ってた。すぐに帰るつもりだったけど、親に泣きつかれて、しばらくは日本にいる事にしたって。
『顔見るなり泣かれるわ、しばかれるわ、さんざんやったわ』って言いながら、田宮嬉しそうだったわよ」
「そう」

自分を待ってる人が居たことを知って、安堵したのだろうと思った。

(そうだよ、東吾。日本にもちゃんとあなたの居場所はあるから)

心の中で東吾に話しかけると自然と思いがこみ上げてきた。


東吾にもう一度会いたい。

会って話がしたい。


私の中の迷いが吹っ切れ顔を上げた。
私の表情を見て由香が微笑んだ。

「やっと腹括ったみたいね」
「なんかそれ違うと思うけど」
「なんでもいいじゃない。それじゃ後は本人同士で話し合ってね。もうすぐ田宮がここへ来るはずだから」
「はいっ?!」

とんでもないことをさらっと言って席を立った由香を慌てて引き止めた。

「ちょっと待って!由香!急すぎない?!」
「もうさぁ、あんたたち何年すれ違ってんのよ。もういい加減さっさとケリつけなさいよね。見てるこっちがじれったいったら・・・・って言ってるうちに来たみたいね。じゃあね、沙羅」
「ちょっ!由香!!」

私の横を通り過ぎて店を出ようとする由香を振り返ると、ちょうど東吾が入れ違うように店に入ってくるのが見えた。
由香は東吾の肩をぽんと叩いてから店を出て行った。
東吾がふっと笑って由香を見送っている姿を見て、私の胸が高鳴った。

(東吾・・・)

何も言えず、ただ呆然と東吾を見つめるしか出来ない私の目の前に東吾は立った。
それでも言葉が出てこなくて固まっている私に東吾も少し緊張した様に顔を強張らせて言った。

「店、出えへんか?歩きながら話したいんやけど」
「え・・・あぁ、うん。わかった」

急な展開に頭はついていっていなかったけど、どうにか手を動かし上着を羽織って店を出た。

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