初恋
田宮は転校してきてから1ヶ月もしないうちに、クラスの中心人物になっていた。
独特のしゃべり方と明るい性格。
休み時間になれば、いつも田宮の周りには人が集まっていた。

「田宮、今日の帰り、俺の家遊びに来いよ」

クラスの男子が田宮を誘っていたが、田宮は首を横に振った。

「めっちゃ行きたいけど、俺、部活あるから行かれへんねん」
「そんなのたまにはサボれよ」
「あかん。俺、チームの柱やもん。もうすぐ試合あるし、俺が抜けるわけにはいかへんねん」

そう言って田宮はにかって笑った。

「あんな事言ってますよ?キャプテン?」

私は隣の席にいる景に話しかけた。
景は読んでいた本をぱたんと閉じた。

「確かにあいつが入ってうちの戦力はアップしたからな」

そう言って景は視線を田宮に向けた。
相変わらず田宮はにこにこ笑いながらクラスメート達と話していた。

「なぁ、沙羅」

田宮に向けていた視線を私に向け、景が切り出した。

「今度の日曜、大会がある。見に来ないか?」
「珍しい!景が見に来いだなんて」
「まぁな。中学最後の試合だしな」

そう言って景は、また田宮を見た。

「それに、沙羅に負けた試合を見せたまま終わりたくない」

誰よりもひたむきにテニスと向き合ってきた景らしいと思った。
恐らく自分の負けるところなど見られたくなかっただろう。

「うん、分かった。行くから、負けるなよ」

私からのエールに景は「ああ」とだけ答え、私の頭をくしゃっと撫でた。
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