初恋
次の日。
私は田宮にお礼を言わなければと思い、田宮が教室に入ってくると同時に田宮に声をかけた。

「田宮。昨日はありがとう。迷惑かけてごめん」

私の言葉に田宮ははやり視線を合わせずに答えた。

「そんなん気にせんといて。俺が委員長にまかせっきりにしたから無理したんやろ?これからは俺もちゃんと手伝うから無理しなや」

言葉は優しいが、やっぱり態度はよそよそしいままだった。
しかし、もういちいち落ち込んではいられない、と思い「ありがとう」とだけ答えて田宮から離れた。

それからの毎日は、文化祭に向けて慌しく過ぎていった。
そして文化祭当日。
田宮の提案したステージは大盛況で幕を閉じた。

放課後。
クラスの皆は『打ち上げだ』と騒ぎながら盛り上がっていたが、私は担任に呼ばれていたため少し遅れて行くと告げた。
職員室から戻ると、教室にはもう誰もいなくなっていた。
ガランとした教室の床に学ランが落ちているのに気が付いた。

(誰のだろ・・・)

拾い上げて名前を確認すると田宮のものだった。
田宮は打ち上げには参加せず、文化祭が終わると同時に「レッスンに遅れる!」と大急ぎで教室を飛び出していった。

(いくら急いでても学ラン忘れるか?)

私はくすっと笑いながらぽんぽんとほこりを払った。
そうすると、微かに田宮の香りがした。
その香りが、電車の中で私をかばってくれた田宮の姿を思い出させた。

(あの時は手をつないでデート・・・したんだよなぁ・・・)

今のそよそよしい関係と比べると、ぎゅうっと胸が締め付けられる程の切なさを感じた。
手にしていた田宮の学ランをじっと見つめた後、そっと胸に抱きしめた。


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