初恋
「卒業生代表 藤堂景一」

景の答辞が終わり、一斉に卒業生が立ち上がった。
周りの動きに私も閉じたままだった目を開け、立ち上がった。

「卒業生 退場」

進行役の先生の声で、私たちは在校生の歌う『蛍の光り』に見送られ体育館を後にした。

これで『中学生』という時間を私たちは卒業した。
でも、私は全然卒業していない。
想いを・・・この場所に残したままだ。
前を見る事も出来ず、
諦める事も出来ず、
その場所に立ち尽くしたままだ。

最後のホームルームが終わり、皆それぞれ名残を惜しんで教室に残っていた。

最後に・・・
最後だから
田宮に何か言わなくちゃ。
明日には田宮はいなくなってしまう。

私は由香や麻衣と話しながら、落ち着かない気持ちでいた。

「なんだよ、田宮。こんな日までテニスかよ!」

クラスの男子の声を聞いて田宮を見ると、田宮はラケットバックを背負い教室を出ようとしていた。

「テニスプレーヤーに休みはないねん。そんじゃみんな達者でな!」

そのまま立ち去ろうとする田宮に皆口々に「頑張れよ」とか「あいそねぇ」と声をかけたが、田宮は笑顔でそれをかわし教室の扉に手を掛けた。

行ってしまう。
本当にこれで田宮が行ってしまう。

そう思った瞬間、私は叫んでいた。
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