初恋
次の日。

私は抜け殻になった様にぼーっとしていた。
今日の午後の便で田宮はアメリカに行くと聞いた。
でも、私は見送りに行くつもりはなかった。
田宮はみんなに見送りされたくないからと、わざわざみんなが合格発表で来れない日を選んだのだから。
私ひとりで田宮を見送る勇気なんてなかった。

リビングのソファでごろごろしていると、携帯が鳴った。

(あ、由香かな?麻衣かな?)

ふたりには、合否が分かり次第連絡するように言ってあった。

「もしもし?」

のんびりと電話に出ると由香の勢いのある声が聞こえた。

『沙羅、あんた今どこにいるの?!』
「どこって・・・家だけど?それよりどうだったのよ。受かったの?」
『合格に決まってるでしょ?!そんな事よりあんた、なに家でのんびりしてんのよ!』

由香の怒鳴り声の意味が分からず、少々不機嫌に答えた。

「由香、言ってる意味が分かんないんだけど」

私の言葉に由香はたまりかねた様に叫んだ。

『田宮の事よ!』
「・・・あぁ・・・」

気のない返事をした私に、由香は勢い良く話し始めた。

『あぁ・・・じゃないわよ!なにそんなとこでぐだぐだやってんのよ!田宮は・・・』
「もう終わった・・・前にもそう言ったじゃん」

由香の言葉を途中で遮り私が言うと、由香はふぅっと長いため息をついた。
少し間をおいて再び由香が話し始めた。

『あんた前に言ったじゃん。田宮に、『あぁそう言えば高宮って言うクラスメートいたな』って記憶に残る方がいいって。
じゃあんたは?
このまま田宮とさよならして、それであんたは『あぁ、そう言えば田宮ってやつ好きになったなぁ』なんて思い出にできんの?
高校に入って、環境も全く変わってもあんたは身動きとれないままなんじゃないの?』

私はぐっと言葉に詰まった。
このまま思い出になど出来そうにない。
高校に入って、いろんな人に出会っても私はきっと田宮を想い続けるだろう。
それは行き着くことのない道の様に果てしなく続くのだろう。

黙ったままの私の耳に今度は麻衣の声が聞こえてきた。

『沙羅、前にも言ったけど素直にならないと後悔するよ?』
「後悔?」
『うん。言いたい事、言えなかった事。今ならまだ間に合うよ』

柔らかな麻衣の口調が私の心に入り込んできた。

言ってもいいのかな。
ただのクラスメートじゃなくなるけど。
でも、卒業したからもうクラスメートでもないのか・・・。
もしかしたら、田宮の記憶にも残らなくなるのかな・・・・。

そんなの・・・・嫌だ!

『沙羅!』

ふたりが私を呼ぶ声で心は決まった。

「私・・・言ってくる!」

そう叫ぶと、私は慌ててコートを羽織り外へ飛び出した。

まだ間に合うかな。
今度はちゃんと言うから。
ちゃんと伝えるから。
だから
まだ行かないで。

迷いを捨てた私は、ただひたすらに空港を目指した。
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