初恋
家に帰り、さっとシャワーを浴びて浴衣に袖を通した。
着付けも終わり、髪を結い上げた時、景が迎えに来てくれた。

「馬子にもなんとかってやつだな」

景が私の浴衣姿を見た第一声がそれだった。

「素直に可愛いって言えないかな」

正直、部活が終わってここまで準備するのは大変だった。
私は自分の努力を少しは誉めて欲しくて少しムクれて見せた。
すると景は少し切なげに目を細めて言った。

「本音を言えば今すぐ抱きしめたいくらい可愛いさ。でも、幼馴染は抱きしめたりしないだろ?」

最後は自嘲的に笑った景の表情に私はぐっと言葉に詰まった。
景はまだ私の事を想っててくれていたのだ。
でも、私の気持ちを知って『幼馴染』というスタンスを変えないでいてくれてる。
もしかしたら、全く私と関らない方がラクかもしれないのに・・・・・。
そんな景の気持ちも考えず、私は景がいつも通りに振る舞っていてくれるから、その優しさに甘えていた。

「ごめんなさい・・・」

そう呟くと、景は私の頭をポンポンと軽く叩いた。

「なんで謝る?俺は自分で選んでこの『幼馴染』という立場にいるんだ。お前が気にする必要はない」

そう言って微笑んだ景の顔を見て、私は少しほっとした。

「さ、集合時間に遅れる。行くぞ」
「うん」

私は急いで下駄を取り出し、景の後について駅を目指した。

集合場所の駅前は大勢の人でごった返していた。
みんなを待ちながら、私は行きかう人を見て去年の事を思い出した。

(去年も由香に強引にお祭りに誘われたっけ)

でも、来てみれば東吾しかいなかった。
成り行きでふたりでお祭りに行くことになったんだったなぁ。

そんな事を思い出していると、部長の声がした。

「おし!みんな集まったな。それじゃ出発!みんな、はぐれるなよ」
「「は~い」」

部長が先頭に立って歩き、その後を部員達がぞろぞろとついて行った。

(なんだか引率の先生みたいだな・・・)

その光景を見てひとりくすっと笑い、私もみんなの後に続いた。
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