初恋
「着いたぞ。ここで花火見物しようぜ」

部長が案内した場所はお祭りの会場から少し離れた河原だった。
そこは穴場らしく、周りには人がチラホラいる程度だった。

「部長~、こんなところから花火見えるんですか~?」

誰かがそう言うと部長は胸を張って答えた。

「俺が去年探し当てた穴場だ。ここからバッチリ花火見えるぞ。期待しておけ」

(どうだか・・・)

部長の言葉を素直に受け止めていないのは私だけではないと思う。
私はやれやれと思うながらも、河原に腰を下ろした。
ぼーっと川の流れを見ていると、ばたばたして忘れていた東吾からの手紙の事を思い出した。

(返事・・・書きたいけどなんて書こう・・・。私も会いたいのはもちろんだけど、そんな事お互いに書きあったって辛いだけだしな・・・)

そんな事を考えていると、景が隣に来て腰を下ろした。

「何難しい顔してる?」

景が顔を覗きこみながらそう言うので、私は慌てて俯き加減だった顔を上げて言った。

「なんでもない。ただぼーっとしてただけ」

景に東吾の事を相談するのは躊躇われ、そう誤魔化した。
だけど、景は視線を川に向けたまま言った。

「田宮の事だろ」
「えっ?なんで?」

東吾の事は今まで景の前で口にした事はなかった。
あの空港での別れの事も話していない。
それなのに、なぜ今私が東吾の事を考えてるって分かったのだろう。
不思議に思い景を見ると、景はふっと笑って私を見た。

「部活の時から様子がおかしかったからな。お前にそんな顔させるのはあいつだけだろ?」
「あっ・・・」

私は図星を指され、恥ずかしくなって俯いた。
そんな私の頭を景はぽんぽんとあやすように軽く叩いた。

「なにがあった?話してみろよ」

私は景の言葉に促されぽつぽつと話始めた。

「東吾から・・・手紙が来たんだ」
「それで?なんて書いてあったんだ?」
「むこうでの生活の事とか・・・。でも最後に私に会いたいって・・・」
「そうか。で、沙羅は?あいつに会いたくないのか?」
「もちろん会いたいよ。でもね。その事を手紙に書いたって仕方ないじゃない?本当に会える訳じゃないんだし。逆にお互いが切なくなるだけだと思うの。そういう思いをさせないためにも、東吾は私の告白を聞かなかったんだと思うし、東吾も気持ちを言わなかったんだと思うの。それなのに、思わず手紙に書いてしまう程、東吾は向こうで辛い思いしてんのかな、って思ったらなんて返事したらいいか悩んじゃって・・・」
「そうか」

景はずっと川に視線を向けたまま私の話を聞いていた。
私が話し終えると、視線はそのままで話した。


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