初恋
その後、遊園地を後にした私たちは電車に揺られ、駅まで帰ってきた。
まだ離れたくないなって思っていると東吾が「家まで送る」と言ってくれたので、私は素直に送ってもらう事にした。

家までの道のりは、会話もせず、繋いだ手から伝わる温もりをただ感じていた。

「あ・・東吾、ここ私の家」

とうとう家まで帰ってきてしまい、お互いに立ち止まった。
そして東吾が俯いたまま言った。

「沙羅、明日、空港には見送りに来んといて」
「えっ?なんで?」

少しでも長く東吾を見ていたい私は当然見送りに行くつもりだった。
困惑の声を上げた私を東吾は切なく目を細めながら見た。

「見送りになんて来られたら、本気で沙羅を連れて行きたくなる。だから、ここで見送って。今なら笑顔で沙羅と離れられるから」
「東吾・・・」

私はまた涙が溢れそうになったけど、ぐっと拳を握り締めて堪えた。
東吾が望むから。
笑顔で見送られる事を望むから。
私は笑顔を作って言った。

「分かった!ここで見送る。じゃあ、東吾。次は2年後だね!」
「ああ、そうや。2年後や。それまで大人しく待っときや!」

そう言って東吾は私の頭をくしゃっと撫でた。

「今の藤堂の真似な」

そう言っていたずらっぽく笑った東吾を見て、ははっと笑った。

「やっぱり沙羅は笑顔が一番ええわ」

そう言って私のおでこにちゅっとキスを落とした。
そして、私の好きなふわふわの笑顔をして言った。

「ほな、沙羅。行ってくるわ」
「うん、東吾。いってらっしゃい」

以前もそうした様に、わざと気楽なあいさつを交わした。
そして東吾はくるっと踵を返して歩き始めた。
私はその後姿をきつく拳を握りながら見送っていた。

まだ、だめだ・・・。
東吾が振り返るかもしれない・・・・。

私は手が白くなる程握り締めながら微笑んでいた。
そして、東吾の姿が角に消え、その手を解放した瞬間、ぼろぼろと涙が溢れた。

私は玄関に駆け込むと、そのままそこにへたり込んで声を上げて泣いた。


「うっ・・・東吾!・・・・とうご・・・・」


2年という月日は長いのか短いのか。
きっと人生の中で見ればたった2年。
だけど、この時の私には途方も無いくらい長く感じていた。
それでも、東吾が約束をくれたから。
それを支えに頑張れると・・・
この時は思った。



だけど、2年の約束が守られることは・・・・





なかった。


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