初恋
由香と麻衣を見送り、リビングに戻ると景に声をかけた。

「景もありがとう。私なら大丈夫だから帰っていいよ」

「俺は残るよ。おばさん、今日夜勤なんだろ?」

景はそう言って私を隣に座るように促した。
大人しく景の隣に座ると、私の顔をじっと見つめて言った。

「こんな状態のお前をひとりにしておけない」
「こんな状態って・・・私なら大丈夫だよ」

そう言って微笑みかけた私の手を景はぎゅっと握った。

「俺にまで遠慮するな。怖いんだろ?本当は怖くて仕方ないんだろ?じゃなかったら、お前は現実を見ていない」

景にそう言い切られ、私は俯いた。
そんな私の頭を景はいつもの様に撫でた。

「辛かったら辛いって言え。自分の中に溜め込むな。でないと、お前、いつか潰れるぞ」

「景・・・ありがとう・・・」

誰よりも私を理解してくれる幼馴染に私は自分の胸のうちを全て話した。

「まだ信じられない。何が起こってるのか理解できない。景が言うように現実を見ていないのかもしれない。でも、私、東吾と約束したから。東吾が約束破っていなくなるなんて思えないんだ」

「約束?」

首を傾げる東吾に説明した。

「2年後・・・東吾がプロになって私を迎えに来るって約束したんだ」

私がそう言うと、一瞬景はぎゅっと私の手を強く握り辛そうな表情をした。
でもすぐにいつもの口調で話した。

「そうか・・・だったらお前はその約束を信じてあいつの無事を祈ればいい。まだ生存者はいるはずだから」
「うん!」

景に勇気を貰った気がした。
きっと東吾は生きてる。
私はそう信じてテレビから流れてくる情報を食い入る様に見つめていた。





次の日の朝早くに由香と麻衣は約束どおりに再びうちに来てくれた。
それと入れ違うように景は帰っていった。

「沙羅、朝ごはん買ってきたから。一緒に食べよう」

麻衣がコンビニの袋からサンドウィッチやおにぎりを並べていた。

「ありがとう、麻衣」

微笑んでそう言うと、由香が安心した様にふっと笑った。

「昨日と随分表情が違うね。安心したよ」
「え?私、そんなひどい顔してた?」
「そうりゃもう・・・ひどいのなんのって・・・」
「ちょっと・・・それ言いすぎじゃない?」

そう言って3人で顔を見合わせて笑った。
そして麻衣が聞いてきた。

「景一くんのおかげかな?」

麻衣の問いかけに微笑みで答えた。

「さすがは藤堂景一ってとこね」

妙に感心したように言った由香の言葉にまた笑った。


どん底に突き落とされても、私には支えてくれる幼馴染と親友がいる。
だから私は東吾の無事を祈れる。
東吾を信じて待っていられる。
そう思っていた。
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