・*不器用な2人*・(2)
保健室受験をする生徒は全学年合わせて3人だけだった。

3年生は私と安藤さんの2人。

もう1人は1年の桜庭さんという女の子だった。

ライトブラウンの髪や、ネイルの施された真っ白な手、耳に飾られたたくさんのピアス。

1年生とは思えないほど垢抜けた容姿には少しだけ驚いたものの、保健医さんと話す時は明るく笑い、少し幼い声で話し、時々敬語を間違えては恥ずかしそうに顔を覆っていて、邪気のない印象を受けた。

「そろそろHRが終わる時間かな……」

時計を見ながら保健医さんが言った時だった。

ノックなしに扉が開き、井方君が入って来た。

彼はテーブルに囲んでいる私たちを見ると「すごいメンツ」と低い声で笑い、クーラーの利いた室内へと入って来る。

「千尋ちゃん、今日の帰りバスだっけ」

井方君に訊ねられた安藤さんはパッと表情を明るくし、頷いた。

「じゃあ薫さんと帰るんだ。
良かったね」

安藤さんの髪をクシャクシャと撫でてから、井方君は保健医さんへと近寄って行った。

「ここってストパーとかある?」

井方君に真顔で聞かれた保健医さんは、「ん?」と真顔で聞き返す。

座っていた私たち3人も、慌てて井方君を振り返った。

「ストレートパーマのことかな……?
それともストッパのことかな……?」

ゆっくりと訊ねられた井方君は「ストッパ!」と思いだしたように言い直す。

「あるけど、あれ喉渇くから嫌いって言ってなかった?」

棚からパッケージを取り出しながら保健医さんが言うと、安藤さんが井方君を振り返った。

「サツキ君、お腹痛いの……?」

恐る恐る訊ねる安藤さんの肩を、慌てたように井方君が両手で掴む。

「俺じゃない!俺じゃないよ!」

ガタガタと肩を揺さぶられても、安藤さんは抵抗することなく「そっかー」と慣れたように返事をする。

「風野先輩!本当に俺じゃないから!」

私にも念を押すように言ってから、井方君は保健医さんからパッケージを1箱受け取る。

「そこまで全力で否定しなくても良いよ……。
別に井方君がお腹壊してても私引かないし……」

フォローのつもりでそう言うと、どうやら言葉が胸に刺さったらしく、井方君は両手で顔を覆った。

「だから俺じゃないんだってば!!」

また否定し直そうとする井方君の背中を安藤さんが笑いながら叩く。

「もうすぐ試験始まっちゃうから、教室戻った方が良いよ」

背中を押された井方君は、パッと顔から手を外して笑顔になると、退室の挨拶をすることなく保健室を飛び出して行った。
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