・*不器用な2人*・(2)
「そう言えば、パッケージごと薬渡しちゃって良かったんですか……?
生徒に薬出すのって慎重にやらなくちゃいけないって、この前何かの本に書いてあったんですけど……」

井方君が出て行って暫くしてから。

桜庭さんが思い出したように顔を上げた。

プリントの整理をしていた保健医さんは「大丈夫だよ」とおっとり答える。

「あの薬はね、ここで預かっているだけで、井方君が持ってきてくれたものなの。
そこの棚の1番上の段のは全部、彼が預けているものなんだよ」

そう言われ、私は薬品棚に入った色とりどりのパッケージを見る。

頭痛薬、咳止め、胃腸薬、吐き気止め、点眼薬、氷嚢……。

どれも薬局で売られているメジャーなものばかりで、品ぞろえはやけに豊富だった。

「校内で体調が悪くなっても直ぐ手元に薬がなかったら辛いだろうからって。
バスケ部の分までいつも切らさないように揃えてあるの」

サポーターや冷却スプレーなどが、練習中に怪我をした時に使えそうなものは、手前の方にずらりと並べられていた。

「すごい人、なんですね……」

桜庭さんが感心したように言うと、安藤さんもゆっくりと頷いた。

「病気がちだった分、他の人のことも考えられる優しい子に育ってくれたんだよ…」

懐かしそうに目を細めてそう言うと、安藤さんはまたテーブルへと視線を戻した。

「井方君は、謙虚で誰にでも親切だし、1度会った人の顔はちゃんと記憶しているから。
そういうところが部内でも買われてるんだろうね」

保健医さんはそう言いながら、プリントを机の上で揃えた。

試験5分前。

私と桜庭さんと安藤さんの前には問題用紙がそれぞれ置かれた。

「他の教室と同じように、チャイムが鳴ったら問題を開いて、終わりのチャイムが鳴ったら鉛筆を置いてね。
試験中の出入りは1人2回まで大丈夫だけれど、同学年の生徒が同時に出て行くのは禁止されているから、気を付けてね」

そう保健医さんが言い終えたところで、試験開始のチャイムが鳴った。
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