続・鉢植右から3番目


 去年の夏の、彼の手を思い出す。

 こっちにおいでって言ってるみたいだった、あの大きな手のひらを。

 それは目に見えなくても、今でもちゃんと差し出されていたんだ。私が見回しさえすれば、いつでもそこに。

 ヤツが、立って。

 無表情だけど、優しい瞳で。私をじっと見ているんだ。

 病院のベッドで、カーテンに仕切られたその狭い空間で、私は一人だった。

 化粧も崩れた状態で、シャワーも浴びてないから汗くさかったし、服も皺皺だった。

 だけどずっとそれからは微笑んでいた。

 腕に刺さった点滴はちょっと痛かったけど。

 お腹も空いていて、今夜眠れるかなって思ってたけど。

 でもここ最近で、一番幸せな夜だった。

 
 私はもっと、あの人を信じなければならないんだ。

 ちゃんと向き合ってくれてるんだって、そこを、言葉がなくても信じないといけないんだ。

 でも大丈夫。これからは、ちゃんとあの手を見つけるから。



 見付かるまで自分でちゃんと、探すから――――――――――――


< 126 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop