続・鉢植右から3番目


 ―――――――――――はーい?・・・何ですと?

 ハイツクバルって、なあに?

 耳に入ってきた単語が理解出来なくて、私も佐々波さんも呆気に取られて口をあんぐりと開ける。

 渡瀬さんは両腕を組んで腰を振りながら近づき、佐々波さんを指差した。

「叩かれたら、その場に這い蹲るのよ。その方が場面として面白いわ」

「・・・・」

「・・・え?」

 無言になった私と、聞き返した佐々波さん。どちらも同じく困惑していて、怒りは急速に冷めていく。

 渡瀬さんは美しい唇を開いて、コロコロと笑った。

「どうせ修羅場を演じるなら適当にやっちゃダメよ、って言ってるの。それにしても、あなた」

 今度は私を指差した。

 例に漏れず、私も緊張して固まる。

「化粧室から声が漏れてたから聞いちゃったけど、言われっぱなしじゃなかったのねえ。今のは惚れ惚れとする、いい平手打ちだったわ。でもその後ですぐに踏みつけないとダメよ」

 ホラホラ、そのヒールでね、こう、ぎゅう~っと。渡瀬さんが可愛らしい笑顔で私の足に手をヒラヒラと振った。

「・・・・・えーっと・・・・いや、踏みつけまでは~・・・」

 私が小声でそう言うと、もう、と渡瀬さんが膨れる。

「観客がいるんだから、盛り上げてくれないと。ホント、漆原君はマトモな奥さんを見つけたわね。彼は十分変人なのに、あなたは意外に普通だわ」


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