続・鉢植右から3番目


 私の返事にまた頷いて、ヤツは風呂へ行ってしまった。

 設置場所が遠い、ってことは、仕事で遠方へ行くってことだな、と理解した。1年一緒に住んで、ようやくうっすらと彼の仕事内容が判ってきた私だった。

 彼の仕事は什器の企画や設置。無口で面倒臭がりのヤツは、対人間でなく力仕事が主な内容の仕事を選んだらしい。

 百貨店やスーパーが閉店したあとに、翌日からのイベントなどの会場作りなどをしている(らしい)。

 一緒に働くのはアルバイトが大半の、ヤンキー上がりかとび職出身者ばかり(らしい)。いずれもコミュニケーション能力は足りないが、元気と力がある若い兄ちゃん達なんだとか。

 ヤツにとっては楽に呼吸が出来る職場なのだろう。

 とにかく、明日から朝は早い、そして夜は遅いんだね。

 と、いうことは、今日はもう話をするチャンスはない。食後にいつもの読書タイムに入らなかったのだから、きっとお風呂から上がったら寝るつもりなのだろう。

 明日は多分、顔も見れない。

 私だってパートに行かなきゃならないし、今晩を逃してしまったらもうチャンスはない気がする。

 なのに―――――――――――


 ・・・・また聞けなかった。

 
 食事時という絶好のチャンスを逃してしまった私は、テーブルの上で一人苦しんで顔を歪めていた。



< 92 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop