【短編】惚れやすい女
「俺、やめたんだ。」


急に真面目な顔で啓くんは言った。


『は?絶対嘘。』


「なんで絶対がつくんだよ…。やめたっつーか、やめてる。」


今度は笑いながら言ったけどその表情は本当の話っぽかった。

どうして?ってちょっと戸惑って


『きつくないの?』


と聞いてみた。


「う~ん、別にタバコでいいし。別に未練たらしく里香ちゃんまた狙おうとかは思ってないよ。ただこの理由でフラれるのはもう嫌だって思った。」


そう言うとわたしの顔を優しそうな目で見た。

いつも。

啓くんの目は本当に優しそう。

包んでくれるって勘違いしそうなくらい。


『もう嫌って前もあったの?』


「ないよ。みんな昔の子は一緒にしてたし。俺、前はこんな優しくなかったんだよ。迎えに来たりとかありえなかったし。冷たい男だったんだけどね。」


『それ、口説き文句でしょ。君は特別って感じで。』


わたしはこんなんしょっちゅう経験がある。

だからすぐ気付く。

そんなわたしに啓くんは笑って


「だから未練たらしく狙おうって思ってないって言ってんじゃん。本当だって。なんだろうな?ま、変わったんだよ、俺。」


そんな話をしてたら啓くんの携帯に呼び出しがかかり、啓くんは帰ることになった。


そのときだった。

ちょっとだけ帰ってほしくないって思う自分に気付いたのは。


でも言えるわけがない。

そのまま啓くんは帰って行った。


「またね。」

と言って。


またねって言葉でわたしは救われた気がした。
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