小さな初恋
「ただいま~」


俺よりも先に葵が家に入って、



急いで、

兄貴の部屋に向かった。




「健斗~?」


“ガチャン"

と、


俺のいる玄関までドアを開ける音が聞こえた。



「もう…いい…」

雨に濡れて、

ぐちゃぐちゃになった足。



紫色の、

葵の傘…



葵の傘に入ったって、

濡れた靴のように全てが葵の中にいられない…



その場かぎりなんだ…


必ずどこかが濡れてしまって、




そこから全体が濡れていく…


心の中心にいることは、

出来ないんだ…















俺は、


気がついたらドアを開けて、



雨の中をがむしゃらに走り出していた。





“濡れたくない"


そう思っていたのに、

今は雨にうたれてしまいたい…




「…ッ葵!!」


掠れた声…

雨に掻き消されてしまったのは、



声じゃなくて俺の気持ち…?



流した涙さえ、

雨と同化してしまう…





どこまで行っても、


満たされないんだ━━━━








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