悪魔的に双子。
はぁ


わたしは小さくため息をついた。


「いいよ、別にわたしは何する訳でもないから。……弁当タイムが気まずくなるだけで」


「うっ……ゴメン」


あははっと無理矢理笑う新田の顔を見て、このアホヅラにも、辛い思い出ってものがあったんだなとぼんやり思った。


「ねぇ、やっぱ、い、じめとかって普通にあるものなの?」


新田が不思議そうにわたしを見下ろす。


「なんでそんなこと聞くの?」


「わたしの知ってる子も……そういう目にあってたの」


いじめ、という言葉の響きが苦手だ。


人の幸せとか、矜恃とか、大切なもの吸い取ってしまいそうな嫌な響き。


「ああ、もしかして、相川さんのこと?」


新田の答えに、わたしを驚いて目を開いた。


「蓮、新田くんに話したの?」


「ううん、本人に聞いたわけじゃないよ、でも結構有名な話しだからね~。


だから相川さんって、ちょっと怖がられてるでしょ?」


そうか、有名な話だったのか。


わたしは軽くショックを受けた。


でも確かに、広く知られててもおかしくはない話しだ。


「でも相川さんってすごいよね~」


半ば放心するわたしを知らず、新田はおかしそうに笑って言った。


「昨日はホントびっくりしたよ。バスケ部の奴らと一緒に校門でたら相川さん俺のこと待っててさ、そのまま冷やかされんのも全然気にしないで俺引っ張りだして、成海とのこと聞き出そうとするんだもん。……まぁ、勢いに押されたのもあるし、別に隠すことでもないからすぐに話したんだけどね。」


「……へぇ」


さすが蓮、あのちっこい体のどこにあんな力が隠されているのやら。


「ねぇねぇ、青ちゃん」


新田は満開の笑みをわたしに向けて言った。


「相川さんってさぁ、成海のこと好きだったりすんのかな~ねぇ、どう思う?」


思わずうろんな目を向けてしまった。


「さぁね。」


話すことを大方終わったらしいので、わたしはとっととこのアホと暑いコンクリートから逃げるべく体の向きをかえて歩き出した。


「えっ、ちょお待って」


新田の、なんとなくからかいを含んだ声がわたしを追いかける。


こんなのと毎日部活してるのか、有志は。


少し兄が気の毒になった。


今日の夕飯には、有志の好きな豆腐をふんだんに使おう、とヘラヘラ笑いながらついてくる新田をしり目にひっそり心に決めた。
< 113 / 272 >

この作品をシェア

pagetop