悪魔的に双子。
わたしは二階に隠れようと思って階段に向かおうとしたが、途中で考え直した。


まだ引っ越してきてそんなに月日がたっていないので、階段の下の物置に入れるだろうと思ったのだ。


開けてみるとやはり、中には掃除機とトイレットペーパーしかはいっていなくて、まだ体の小さかったわたしはあっさりと中に入った。


「僕も」


閉めようと扉を引くと、なぜか逆の方向に扉が引かれた。


体を滑り込ませてきた真昼に、わたしは目を見開いた。


『なんではいってくるのっ』


小さな声で囁くと、真昼は楽しそうに笑って言った。


「いいでしょ?もう有志くん数え終わっちゃったみたいだし。」


有志のもういーかい?という声が聞こえた。


わたしは真昼だけ追い出すわけにはいかなくて、はぁーとため息をつきながら膝に顔をうずめた。


物置の中は暑くて、蒸されているみたいだった。


「ねぇ、青。青って有志くんのこと大好きだよね」


突然尋ねてきた真昼にわたしはシッと唇に指を添えた。


『見つかっちゃう』


「大丈夫だよ、今有志くん二階いるみたいだし。」


真昼が天使さながらに微笑むのが、空気で伝わってきた。


見惚れてはいけない悪魔の笑みだ。


わたしの机の上にゴキブリの死体置いたの、真昼に決まってるんだからっ


「大好きに決まってるよ、当たり前でしょ」


ぶっきらぼうに答えると、真昼は薄暗い中で驚きの質問をしてきた。


「……それは、僕よりも?」


わたしはぱっと真昼のいる方を見やった。


「当たり前だよ、そんなの、有志の方が好きに決まってる」


わたしは思いもよらないことを聞かれてびっくりしていたけれど、答えはするすると口から出てきた。


有志が大好き。


もう一人のわたしのような彼を、誰かと比べることなんて、本当はできないくらいだ。


わたしが答えた後、狭い空間になんとも言えない空気が流れた。


真昼のことだから、そりゃそうだよね、なんて言ってからかうように笑うと思ったのに。


わたしは額にびっしょり汗をかきながらますます縮こまった。


「……僕、ここ出る」


ふいに真昼が言った。


わたしは目を瞬かせた。


「……でも、見つかっちゃうよ」


「いい、べつにかくれんぼなんて」


自分で言い出したくせに、真昼は妙に冷たい声で言うと、本当に出ていってしまった。


一瞬だけ、外の光がわたしの目をつつく。


でもまたすぐに閉ざされて、わたしは少し心細くなった。


真昼といるのなんて嫌だと思ったけれど、やはりこんなところに一人でいるのは心細い。


早く見つけてくれないかと思っていたけれど、いっこうにその気配はなくて、わたしはなんだか泣きたくなっていた。


暑い、狭い、暗い。


まだだろうか、有志、有志、早く見つけて。


なぜか家の中で物音がしない。


わたしはとうとう我慢できなくなって、物置の扉を開こうとした。


「………えっ…」


わたしは驚いて扉をもう一度押した。


開かない、扉が開かない。


外に出られない。


耐えられなくて、わたしはシクシクと一人泣き出した。
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