悪魔的に双子。
「……あのね、先輩、さっき弾いてた曲は、『水の戯れ』と同じ人が作曲したんです」


「…そうなの?」


「はい、今だからはなしますけど、わたし、先輩がどこぞの天使さんの話するたびに、心の中でむくれてました。」


「……そう、なの」


「はい、だから、先輩」


わたしはにっこり笑った。


わたしにできる、最上級の笑顔だ。


「『亡き王女のためのパヴァーヌ』わたしの大好きな曲も、先輩の特別な曲のうちに入れてくれませんか?」


穏やかに言ってみたけれど、内心震えていた。


先輩がピアノを弾くきっかけとなった、天使の弾く、『水の戯れ』


先輩の特別な『天使』に並べてくれ、なんておこがましいと思われるかもしれない、と。


先輩はわたしの震えを知ってか知らずか、柔らかく微笑んだ。


「うん……というより、天使よりずっと青ちゃんの方がとっくの昔に俺の特別なんだけどね」


わたしは目を見開いた。


泣きたい衝動がこみ上げてくるのを必死で堪えた。


凛太朗先輩は照れたように頭に手をやって言った。


「そりゃあ、天使との出会いは特別だったよ。でも、しょせんはどこの誰ともわからない人との、一瞬の出会いだよ。それよりずっと、青ちゃんと一緒にいれる時間の方が、あったかくて優しかった。」


こらえきれなくなって、涙がぽろぽろ零れた。


「ありがと、青ちゃん」


大好き先輩の、大好きな笑顔。


なんて幸せな初恋だろうと思った。


こんな幸せな初恋、そうそうない。


あったかくて優しい。


先輩の笑顔を、痛いくらいのこの想いと一緒に心に刻みつけたかったけれど、涙でかすんで、よく見えなかった。




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