悪魔的に双子。
しばらくピアノを弾いて行くと言う凛太朗先輩を残して、わたしはとぼとぼと昇降口へ歩き出した。


心の中が朝よりずっとすっきりしている。


でも、いっぺんに無くなりすぎて、寂しくもあった。


だいぶ前から、受験勉強で先輩が来なくなっても、わたしは音楽室に来続けようと決めていた。


一つは、たまに凛太朗先輩がいらっしゃるかもしれないから。


一つは、放課後の音楽室が寂しくなってしまうから。


ピアノを弾いていたら、凛太朗先輩が天使に導かれて、わたしが凛太朗先輩に導かれたように、わたしのピアノを聴いて誰かが来るかもしれない。


昇降口に着くと、三人がそれぞれの表情を浮かべてわたしを待っていた。


「遅いよ、青、どこまで待たせるの」


唯流はふくれっ面だ。


「ごめん、唯流」


「やっと来た」


有志の顔には優しい色が浮かんでいた。


「うん、遅くなっちゃった。」


「あ、青っ」


真昼の顔には何故か緊張が滲んでいる。


「ん?何?」


真昼の頬がふわりと赤らみ、覚悟を決めたように顔をあげると近づいてきて、わたしの耳に囁いた。


「……したん、だよね、そのこ、こく…」


「したよぉ」


言葉をさえぎってにっこり笑うと、真昼の目がまん丸く見開かれた。


「もしかして、丸だったの。」


………丸?


付き合えることになったんですか?って聞きたいのだろうか。


「丸って……テストで花まるもらったみたい」


「そんなんじゃない!どうだったの?わかってるくせに」


ストレートなやつ。


こっちは傷心してるのに。


「さぁね」


でも、不思議と愉快だから許してやることにした。


ただし、このくらいの意地悪は許してほしい。


「ちょっと、なんの話よ」


話の見えない唯流がぷうっと頬を膨らませる。


「まぁ、いいじゃない、行こ、唯流」


微笑む有志が唯流の手を引っ張ってずるずる引きずってゆく。


何にも知らなそうで何もかも知ってそうなところが怖い。


「真昼、帰ろ」


見上げると、真昼は少しふてくされたままに、うん、とうなづいた。





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