悪魔的に双子。
わたしの言葉に、百合人くんはしばし沈黙した。


玄関を離れるために後ろを向こうとすると、百合人くんが小さくつぶやいた。


「……思ったことをいうのはダメなこと?」


「ん?」


「したいことをするのはいけないこと?」


百合人くんはいつもと同じ無表情でわたしを見ていた。


でも、その目にはどこかヒヤリとするものがあった。


試されているような妙な感覚がある。


ふいに百合人くんがにっこりした。


「ありがと、青ちゃん。青ちゃんは……僕なんかのことも家族って言ってくれるんだ」


「当たり前でしょう」


こんな短時間で家族なんて言うのはおこがましいことかもしれないけれど、そう思いたい。


「僕……ここに来てからいっつも思ってるんだよ」


百合人くんは手を伸ばして、わたしの頭をなでると、柔らかな声音で言った。


「青ちゃんに会えてよかった。」


百合人くんはにっこり微笑むと、驚くわたしを残して、居間の方へと向かった。


「あー、青ちゃん。あのね」


百合人くんは再び振り向くと、言った。


「気づかないふりするのは、卑怯なことだと僕は思うよ。」


「えっ」


謎の言葉がわたしの胸に突き刺さる。


『何も分かってないふりするのも、本当に何も分かってないのも同じだって。おんなじくらい卑怯なことで人を傷つけることだって。」


昼に音楽室で聞いた、凛太朗先輩の声が耳に響く。


なぜか脳裏に浮かんだのは、いつぞやかの、真昼の泣き顔だった。


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