悪魔的に双子。
唯流のおかげで精神的疲労を負いはしたけど、思ってたよりずっと賑やかな時を過ごして、今日の文化祭準備は終わった。


有志に『お許し』を貰ってから本当に男バスの練習に張り付いているらしい唯流は、先生が終わりを告げた途端機嫌を良くして去ってゆく。


……ずっと試合やってるわけでもあるまいし、見てて楽しいもんなんだろうか。


最近は顧問の先生に言われてマネージャーまがいのことをしているらしいけど。


わたしはというと、放課後はいつも通りに音楽室へ向かう。


ピアノを聴きに、ではなく、弾きに。


音楽室に入ると、換気されていないのか、むっとした空気がわたしの顔に当たった。


少々寒いが、窓を全開にすると、気持ちの良い風が入ってくる。


わたしはうーんと伸びをして、ピアノへとむかった。


凛太朗先輩は、あれから二度ほど来てくれた。


でも、やっぱり勉強が忙しいみたいだ。


放課後は、一人でピアノを弾いている。


寂しくない、といえば嘘になるけれど、わたしには大切な時間だった。


最近は弾くのも結構楽しい。


家から持ってきた昔の教本の中に、いつだったか先輩が弾いていた『エリーゼのために』を見つけて弾いてみる。


転調した後やや難航したけれど、なんとか弾き終えると、妙な達成感があった。


「『エリーゼのために』だって。かわいい曲名」


曲のはじまりも、もの悲しくて、なんかかわいい。


そんなふうに感じるのは、わたしだけかもしれないけれど。


時計を見ると、思ったより時間がたっていた。


窓の外は赤くなっていて、音楽室の中がやけに暗く感じる。


楽器の影が淡い輪郭をもってあらわれる。


「『放課後の音楽室』か。今度ピアノの楽譜探してみよ」


ピアノを閉じて、カバーをふわりとかけ、音楽室を離れた。














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