悪魔的に双子。
わたしは、はぁ、と小さくため息をついて、微かな笑みを漏らした。


「………行けないよ」


「なんで」


「だって……有志は行けないのに、わたしが行けるわけないもの」


「有くんは………行けない?どうして」


心配と不安と好奇心がごちゃ混ぜになったような変な顔をする真昼に、わたしは首をすくめた。


「有志はさ、お父さんを傷つけたママを許さないって決めてるんだよ」


わたしたちがまだ幼い頃に、両親は離婚した。


原因は、ママの浮気。


当時は、浮気なんて言葉の意味も分からなかったし、離婚ってことがどういうことなのかも知らなかった。


ただ、ママはおばあちゃんたちに責められても毅然としていて、パパは、かわいそうなくらいやつれてた。


ママは、仕事に生きる人だった。


たぶん、稼ぎもパパより大きかったんじゃないだろうか。


家庭をあまりかえりみるタイプの母親ではなかった。


でも、わたしたちにとってはかけがえのない、たった一人の母親だった。


パパと有志とわたしの三人で暮らすようになっても、状況がのみこめなくて、特に有志は、泣いてパパを責めたりもしていた。


ママに会いたい、ママに会わせて、と。


でもある頃から、ふっと夢から覚めたように有志はパパを責めなくなり、泣くことも少なくなった。


変わりに、パパのそばに寄り添って、時には有志がパパに絵本を読んであげていた。


わたしは聞いてみた。


どうして急にパパを責めなくなったのか。


有志は、


『一番傷ついたのはパパで、僕が今一番守ってあげないといけないのはパパと青だって気づいたから』


だと言った。


有志によると、ある日すっとそのことがわかったらしい。


それ以来、有志は一切ママを恋しがらなくなった。


きっと、有志の中では、ママを切り離すイコールお父さんを守る、という図式が出来上がっているのだろう。


今ならわたしにもわかる。


お父さんは、わたしたちがママを恋しがるたびに、わたしたちまで離れて行くんじゃないかと寂しくて辛い思いをしていたのだと。


わたしと有志から大好きなママを取り上げたのは自分なのだと、自身を責めもしただろう。






< 224 / 272 >

この作品をシェア

pagetop