悪魔的に双子。
ママの部屋はけっこう散らかっていた。


なんでもホテルに掃除はしないよう言ってあるらしい。


どうしていいか分からずそわそわしていると、ママがわたしを見て言った。


「……青、その中の服、着てみてよ」


「……どれを?いっぱいあるけど……」


「どれでもいいよ。青が気に入ったやつでいい」


気に入ったやつ、と言われてもよく分からなくて、自分が持っていた袋に手をつっこみ、一番はじめに出てきた水色のワンピースを掴んでママを見上げた。


早く、というようにママが目で促してくる。


わたしはおずおずとうなづき、コートを脱いだ。


さっきからママがよく分からない。


いきなり服を大量購入したと思ったら、突然着ろって。


困惑しながらも着替え終わり、向かいあうと、ママはふっと緊張がほどけたような顔をした。


「青はかわいいわね。わたしの自慢の娘だわ」


そう言って、わたしの頬に触れた。


ママの目に、じんわり涙がにじむのを見た。


「ママね、青が大きくなったら可愛い服いっぱい買ってあげようって、楽しみにしてたの。」


ぽろぽろとこぼれる涙を、わたしはどうすることも出来ずに見つめていた。


「ごめんなさい。泣く権利なんてないのに。壊したのはママなのに。でもお願い、これだけは信じて。ママは青と有志が大好き。今までもこれからも、あなたたちを愛してる。あなたたちの幸せを願ってる。そばにはいられないけれど、ずっと想ってる。」


ママは床に膝をついて、肩を震わせてしばらく泣いていた。


わたしはただ、記憶よりもずいぶん小さな背中を、ゆっくりさすっていた。


そしてぼんやりと考えていた。


ママにとって、わたしたちと離れた後の時間は、どんな時間だったんだろう。


わたしにはお父さんがいて、有志がいた。


新しい家族もできて、嫌なこともあったけど、孤独なんて感じる間も無く時間は過ぎて行った。


ママには、支えてくれた人はいたんだろうか。


今はどうなんだろう。


誰かがいると願いたい。


一人はあまりに寂しすぎる。


大好きなママには、いつだって幸せでいて欲しい。


わたしもただ、願うことしかできない。


わたしはママと一緒にいることはできないから。


………わたしには、今の家族がいるから。


もうすぐ自分で定めたタイムリミットがやってくる。


それが悲しかった。










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