悪魔的に双子。
離れた寂しさと、会えた嬉しさと、最後の謎の言葉への戸惑いで忙しくて、帰りの道は、あっと言う間だった。


でも、冬だけあって日は短い。


帰ってきたときには完全に暗くなっていた。


自転車をガシャン、と止めると、さぁこの服たちを運ばなくては、とカゴに食い込んだ袋をえいやっ、と取り出す。


ふぅ、と息を吐いたとき、そこに人がいることに気づいて、思わずびくりと首をすくませた。


「………ま、真昼?」


なにしてんの、びっくりするじゃないっ


と怒ると、


なにそのすごい荷物


と逆にあきれられてしまった。


自分がすごい状態である自覚はあるので、頬が勝手にあつくなる。


「これ、には、しょ、事情っていうものがっ」
「お母さんのとこ言ってたんだってね」


そのひんやりした声にまじまじと真昼の顔を見ると、なにやら不機嫌がみてとれてわたしは首を傾げた。


「なに拗ねてるの」


「はっ⁈拗ねてないよ‼」


わたしの言葉に、今度は真昼が怒りをあらわに赤面した。


「じゃ、どうしたの」


「…………いだったんだ」


「はい?」


「だから、心配だったんだよ‼青みたいなお間抜けが一人で遠出なんかして迷子になってるんじゃないかって」


真昼の色素の薄い瞳が家々の窓の光を吸い込んで、きらきら、というかぎらっぎらしている。


わたしはむっとしてふんっ、と鼻をならした。


「わたしは自分のことぐらい自分でできるよ。ご飯だって作れるし、洗濯も掃除だってするもん」


「………分かってるよっ」


ふいに真昼のぎらぎら目が近づいてきた。


きょとんとしている間に、リュックごと真昼の腕に包まれる。


真昼の体温があったかくて、ああ、わたしの身体冷えてたんだな、と思った。


「帰ってこないと思った。青が本当のお母さんのとこ行ったって、有くんに聞いて、そのまんま一緒に行っちゃうんじゃないかと思った。」


真昼の震えが伝わってくる。


もしかして、わたしが帰ってくるのを玄関で待っていたんだろうか。


ふいにおかしくなって、くすりと笑いを漏らすと、耳元でむっとしたような、


「なんだよ」


という声が聞こえた。


手の片方は袋でうまっているので、もういっこの腕を真昼の背中にそっとまわす。


細い肩に頭を預けると、不思議な安心感に満たされた。


「……行かないよ」


「え?」


「だって、今のわたしの家族はあんたたちだもん。真昼も唯流もあみこさんも。大好きだから、離れないよ」


「………ほんと?」


真昼にしてはめずらしい、弱々しくて幼い子どもみたいな声を聞きながら、わたしはうんうんとうなづいた。


「………ねぇ、青」


「うん?」


「………なんでもない」


なんだそれ


顔をあげると、真昼の天使みたいな相貌が目の前にあった。


ふっと、見惚れてしまう。


そのまま、真昼の瞳がゆっくりおりてきた。


唇に、ひどく柔らかいものがあたる。


ぱちぱちと瞬きをしている間に、それはそっけない早さで離れていき、あとには呆然としたわたしと、なにやら満足げな真昼が残された。


「ほら、青。家入ろう。そのでっかい荷物持つからさ」


「あ、うん」


何が起きたか、忘れてしまいそうになるほどの清々しい笑顔が向けられる。


「………真昼、あんた」


「ん?」


わたしの手から袋を取ろうもする真昼の腕をひっつかんで、


「なんで、キスするの」


いつぞやにもした質問を再び繰り返した。


真昼は少し考えるそぶりを見せてから、ふわりと微笑んでみせた。


「青が好きだから」


「………っ」


真昼って……真昼って、真昼って‼‼


こんなやつだったっけ


うん、こんなやつだったよ、と冷静な声がわたしの内側から聞こえた。


ひねくれて、ねじくれ曲がりまくってるくせに、妙なところで素直でピュア。


「ほら、青。風邪ひくから」


やけに機嫌の良さげな声に急かされて、わたしはあったかい家の中に帰った。



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