悪魔的に双子。
悪魔的に
「青ぉ、僕なんか悪いことした?」
新学期初日、今日から三年生という日なのに、有志は朝から泣きっ面だ。
真昼の機嫌が朝から最悪で、有志に当たり散らしているのだ。
「有志はなにも悪くないよ」
わたしは大切な双子の兄に慈しみの笑みを向けて言った。
「悪いのは、いつまでも子どもな真昼。」
そう言ったのはわたしではなく、今日も絶世の美少女オーラを放つ唯流だった。
有志相手限定のとびきり可愛い笑顔を浮かべて、学ランの腕にぎゅっとすがる。
「真昼はほっといて、唯流と一緒に行こ」
口をへの字に曲げた有志が、
「でも…」
と言うと、
「青が解決するから」
下から容赦なしに睨みつけられ、わたしは思わず、うっと退いた。
「どうせ、青のせいなんでしょ。真昼を泣かせたら承知しないんだから」
切り離すような言い方をしていたくせに、やはり真昼が大事らしい。
そしてわたしのことはあまり大事ではない。
ちらちらこちらを気にする有志を引っ張って唯流が学校に行ってしまうと、わたしはふぅ、と息を吐いて真昼を探した。
さして広くもない家なのですぐに見つかる。
真昼は顔を洗うでもなく髪を整えるでもないのに洗面台の鏡の前でじっと自分の顔を睨みつけていた。
「真昼、遅刻しちゃう。行こ」
声をかけると、むくれた声が小さく返ってきた。
「僕のことなんてほっておいて、青の大切な有くんと行けば?」
真昼が拗ねてる原因は分かってる。
お父さんが昨日何を思ったのか、わたしのファーストキスの相手が有志であることを真昼にばらしてしまったのだ。
お父さんにしてみれば、過去の笑い話だろうけど。
「有志はもう唯流と行ったよ。………ねぇ、真昼、もしかして妬いてるでしょ」
もしかしてじゃなくても妬いているのだろうが一応聞いてみると、案の定、頬を薔薇色に染めた真昼にキッと睨まれた。
「そうだよっ悪い?笑えばいいよ、バカだって」
唯流じゃないけど、ほとほと子どもだなと呆れる。
でも、そんなとこもかわいいと思ってしまう。
それに嫉妬されなくなったら、とっても悲しい。
躊躇いながらも、後ろからそっと抱きつくと、小さなため息が返ってきた。
「青は……ずるいよ」
情けない声にわたしは微笑んだ。
「わたしからすれば、真昼の方がずっとずるい」
ある日ぽんっとわたしの世界に現れて、それ以来片時も忘れさせてくれないのだ。
笑顔も怒った顔も、皮肉ですら愛おしい。
「ね、行こうよ、学校」
もう一度言うと、諦めたような、どこか愉快げな笑い声がわたしの鼓膜を揺らした。
真昼がわたしを振り返り、
「うん、行こ」
とうなづく。
そして色素の薄い綺麗な瞳が、ゆっくりと降りてくる。
わたしは吸い込まれるように見つめ返した。
わたしが映る、その瞳。
わたしの真昼。
わたしの、悪魔。
〈終〉
新学期初日、今日から三年生という日なのに、有志は朝から泣きっ面だ。
真昼の機嫌が朝から最悪で、有志に当たり散らしているのだ。
「有志はなにも悪くないよ」
わたしは大切な双子の兄に慈しみの笑みを向けて言った。
「悪いのは、いつまでも子どもな真昼。」
そう言ったのはわたしではなく、今日も絶世の美少女オーラを放つ唯流だった。
有志相手限定のとびきり可愛い笑顔を浮かべて、学ランの腕にぎゅっとすがる。
「真昼はほっといて、唯流と一緒に行こ」
口をへの字に曲げた有志が、
「でも…」
と言うと、
「青が解決するから」
下から容赦なしに睨みつけられ、わたしは思わず、うっと退いた。
「どうせ、青のせいなんでしょ。真昼を泣かせたら承知しないんだから」
切り離すような言い方をしていたくせに、やはり真昼が大事らしい。
そしてわたしのことはあまり大事ではない。
ちらちらこちらを気にする有志を引っ張って唯流が学校に行ってしまうと、わたしはふぅ、と息を吐いて真昼を探した。
さして広くもない家なのですぐに見つかる。
真昼は顔を洗うでもなく髪を整えるでもないのに洗面台の鏡の前でじっと自分の顔を睨みつけていた。
「真昼、遅刻しちゃう。行こ」
声をかけると、むくれた声が小さく返ってきた。
「僕のことなんてほっておいて、青の大切な有くんと行けば?」
真昼が拗ねてる原因は分かってる。
お父さんが昨日何を思ったのか、わたしのファーストキスの相手が有志であることを真昼にばらしてしまったのだ。
お父さんにしてみれば、過去の笑い話だろうけど。
「有志はもう唯流と行ったよ。………ねぇ、真昼、もしかして妬いてるでしょ」
もしかしてじゃなくても妬いているのだろうが一応聞いてみると、案の定、頬を薔薇色に染めた真昼にキッと睨まれた。
「そうだよっ悪い?笑えばいいよ、バカだって」
唯流じゃないけど、ほとほと子どもだなと呆れる。
でも、そんなとこもかわいいと思ってしまう。
それに嫉妬されなくなったら、とっても悲しい。
躊躇いながらも、後ろからそっと抱きつくと、小さなため息が返ってきた。
「青は……ずるいよ」
情けない声にわたしは微笑んだ。
「わたしからすれば、真昼の方がずっとずるい」
ある日ぽんっとわたしの世界に現れて、それ以来片時も忘れさせてくれないのだ。
笑顔も怒った顔も、皮肉ですら愛おしい。
「ね、行こうよ、学校」
もう一度言うと、諦めたような、どこか愉快げな笑い声がわたしの鼓膜を揺らした。
真昼がわたしを振り返り、
「うん、行こ」
とうなづく。
そして色素の薄い綺麗な瞳が、ゆっくりと降りてくる。
わたしは吸い込まれるように見つめ返した。
わたしが映る、その瞳。
わたしの真昼。
わたしの、悪魔。
〈終〉